八谷磨流の趣味小説!

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猿和園(3)白き地の果てより 1話

六月の探検隊



11月3日。今日は事務所に全員が揃う日となった。リビングの扉が開かれ、水無月が入ってきた。
「お疲れ様です。水無月先輩。鞄を。」
すかさず崎元が荷物を受け取った。
「ありがとう怜也。昨日は猿和園に行ってくれてありがとう。うん。引き続き梁平と一緒に調査を続けてくれ。…なんなら見つけてくれたって構わないよ。」
「ごきげんだねぇ透。なんだい。ソウトウさんとこ行ってたんだろう?」
「あぁ竜崎さん。そうですよ。義父さんのところに行ってきました。渉とは別の、例の件でね。」
火野宮が怪訝な顔をしながら聞いた。
「あの。ソウトウさんって?」
「ん?そうか。梁平くん達には話したことなかったな。僕の育ての親なんだけど、仕事柄そう呼ばれてるんだ。総合の総に、棟梁の棟。今僕がやってるやばーい案件の協力依頼ってとこさ。」「ま、そんなことより。まずはみんな座ってくれよ。」

この探偵事務所は六十坪の一軒家であり、多人数での会議などはリビングで行っている。
リビングには六つのアンティークなアームチェアが並んで、真ん中の縦長のマホガニー製のテーブルを囲んでいる。テーブルの上には人数分の紅茶と二つの黒い椅子の模型そしてテレビのリモコンが置かれていた。
「えーそれでは。私立水無月探偵事務所の初めての全体反省会を行います。」
「カタイカタイ。透っち。もっと楽にいこうや。今日は特別な日やからな。」
「博…。そうだな。では、一人一人半年間の反省を言ってもらいます。じゃあ年齢順ってことで。最年長38歳!竜崎一城氏。お願いします。」
水無月の左手前に座っていた男が、立ち上がった。男の真っ黒な髪は所々飛び跳ねていた。
「うーす。」立ち上がりながら喋り出した。
彼はここにいる人物の中では最も背が高く、崎元よりも4cm高い。
「料理してるとこしか見てないと思うが、実はG3担当です。反省はこの半年近く、"鬼"の足取りが全く掴めなかったことだな。つい最近手がかりみっけたからこれから頑張るわ。」
言い終わると男はゆっくりと座った。
「はいみんな拍手。でも奴らが静かなのはいいことですよ。一昨日もらった報告。やっぱりホントみたいです。これから忙しいですね。」
「あぁそうだな。」
「じゃあ次は、誕生日が早い伊津野博くん。」
「ほいっ。」
水無月の右手前の男が跳ねるように立ち上がった。身長は火野宮と同じ165cmである。ただ、伊津野の髪の毛は火野宮とは対照的に真っ直ぐである。
「29歳伊津野博。えー情報担当です。昔南極調査隊にも機械技師として所属してました。民間のだけどね。反省は、昨日から腕時計を無くしていることです。南極帰りに渉っちからもらった大事な超耐久時計…。ニバンの時計…。」
言い終わると伊津野は力なくストンと椅子に落ちた。誰も腕につけたままの時計にツッコミを入れることはなかった。抜けているのか、ボケなのか、反省が無かったのかはわからない。
「反省はこの半年のまとめがいいな。それといつの間にか自己紹介も兼ねてるね。全員揃うことなんてそうそうないし、まあいいか。じゃあ僕の番だね。」
「僕の反省は、まだ渉を見つけられていないこと。早く渉もここの椅子に座らせてやりたいよ。」
水無月は自分の向かいの空席を指差しなかまらいった。
「早く今の案件終わらせないとね。渉の依頼は年内に探してくれ。だったし。」
「じゃ、次は怜也。」
「はい。反省は、同じく渉さんを未だ見つけられて無いこと。ですね。それと、火野宮を、コイツをもっとうまく扱えるようになることです。」
「なぁにぃ?」
「おい座れよ梁平。おまえの番はもう次なんだからそれくらい待てよ。」
立ち上がろうとした火野宮を竜崎が止めた。
「はは、頑張ろうな。はい次梁平。」
「きーっ。」
相変わらずのくしゃくしゃな髪の毛を震わせながら、火野宮が立ち上がった。
「反省は、自分の案件を持てなかったことです。いつも怜也のお供ばかりで。それも一般依頼の。もっと先輩たちみたいになれるよう頑張ります。」
「なんだい。意外とまともじゃないか。」
笑いながら言う竜崎を横目で睨みながら火野宮は座った。

「よし。じゃあ各々仕事に取り掛かってくれ。」
「っと梁平と怜也は残ってくれ。ちょっと昔話をしよう。」
火野宮の顔が明るくなるのを見て崎元は思わず笑みがこぼれた。


「なんだ透っち。南極の話かい。」
「そうだ博。一緒にどうだ?」
「悪いけどパス。また夢にでてくるのはごめんだ。」
「そうか。じゃ、竜崎さんを手伝ってくれ。」
「了解リーダー。」
伊津野は水無月と一度も顔を合わさずに竜崎を追って階段を登った。
「昔話ってなんなんですか?」
珍しく火野宮が"人の物話"に興味津々な様子だった。
「そうだね…。この事務所を立ち上げた理由は教えたよね。表向きは警察が扱いづらい案件を引き受けて、本命はG3や政府の実態を暴く。ひいては世界の真実を知る。」
「で、初っ端から行方不明の仲間探しと。」
「ゔ。ま、まぁ。それはそうだな。うむ。」
水無月先輩。気にせず。続けてください。」
「ああ。怜也ありがとう。…実は、この探偵事務所を立ち上げるより前にも、同じ目的で仲間を集めたことがあるんだ。」
水無月はテーブルの上の模型をつまみ上げた。
「メンバーは僕と渉と博を含めて五人。みんな羽里高校。君らと同じだね。…まず僕らは、南極へ赴いた。博が勤めてた基地に集まった。…言ってなかったね、一万二千年前のオーパーツ。あれ見つけたのは俺たちなのさ。でなけりゃ隠蔽ものだね。」
崎元は思わず声を上げた。
「えっ。あれが…すごい。」
「怜也ずっと気にしてたもんなソレ。それで、そんな話をなんで今になって。」
「これは僕らにとっていい思い出じゃない。むしろトラウマものなんだ。五年前。南極の調査。初めての活動だった。」
水無月は持っていた椅子の模型をテーブルの上に落とした。
「僕らは甘かった。奴がG3に比べたら大したことないなんてよく考えられたものだ。僕はその両者の足元にも及ばなかったのに…。」
そう言うと水無月は立ち上がり、リビングの隅の棚の方へ歩いていった。
「君達には知っておいて欲しい。五年前の今日。あの白き地で起きた悲劇を。」
振り返った水無月の両手には、それぞれ拳ほどの機械が握られていた。水無月は小さく頷きながら、そのうちの一つを二人の前に置いた。
「こいつが全ての始まりだった。これは高校の授業で作ったラジオを渉が改造した受信機。たまたま合わせた周波数がある信号を拾っんだ。」
水無月上着から乾電池を取り出し、その機械にはめ込んだ。
「なんでこんなものが拾えたのかわからない。今はもうわかんないけど。ま、こいつが初めての活動を南極に定めた理由さ。」
水無月が装置のボタンを押すと、単調な女性の機械音声が流れ始めた。
「…てより。繰り返す。国家遠征隊は南極VM基地に無事到達。ツクシ様へ白き地の果てより。」
水無月は再びボタンを押した。
VM基地。そんな基地は南極には存在しなかった。南極でVMといえば最高峰ヴィソン•マシフの頭文字だ。国の機密事項なのだろう。そう考えた。結成してすぐに大きなものを掴んむことができて、僕たちは有頂天になっていた。…そして、決行に映ったのが五年前だ。」
水無月は懐から傷んだ灰色のノートを取り出して喋り始めた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜<人物紹介> 六月の探検隊❶

(Minazuki Toru) 男
一人称:僕
年齢:24歳(南極探索時)
誕生日:6月16日
身長:172cm 体重:51kg
視力:右1.5 左1.2
血液型:A
イメージカラー:水色
座右の銘:時は金なり
大学:羽里大学
職業:大学生(社会学部)
特技:忍び歩き 追跡 ピッキング
趣味:散歩 読書
好きな本:『狂気の山脈にて』(H•P•ラヴクラフト)